「そういやぁ、サバ……まだ釣れてるよ。」


「俺、つい最近35cmくらいの大きいサバがあがってんの2回見た。」



先日、スケジュールの合間の僅かなタイミングで南防波堤へ訪れた際、よく居る常連のおっちゃんがそう話していた。

大きいサバというと、前に良い思いをさせてもらってる翔からしたら、聞き捨てならないワードだった。

釣行後もそのワードが頭の隅で引っ掛かり、その度に天気予報をチェックするも、強風で連日思わしくないコンディション。

唯一天候が悪くない土曜日は仕事があり、仕事後は娘のピアノ発表会。

そもそも土日は人がいっぱ……

いや待てよ……

サバったら朝からスタート……

更に強風予報で釣り人は多くないか……

そもそも今アツいのはマメイカ釣りだし時間帯も被らない……

日曜日は仕事も休みだけど特に予定はない……

風が強い予報だけど払い出しだしメタルジグでの釣りなら何とかなるか......



よし……行こう!!



そう決意した翔は、心の引っ掛かりなど何処かへ置き忘れたかのように、仕事とプライベートのミッションを遂行。

釣行前夜は、ピアノ演奏をノーミスで終えた娘を褒めちぎりながら準備を整えた。

そして翌早朝。

3時30分に起床。

目覚めの良さが抜群な翔は、3分で支度を済ませ家を出た。

案の定いつもより車が少ない南防波堤駐車場へ車を止め、まだ真っ暗で身が切れるような寒さの中、D社のウェアを着込み準備万端。

言っておくが、D社とはDESCENTEのDだッ!!

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根っからのスキーヤーである翔は、スキー用の古しを釣り用として流用している。

最近のスキーウエアはダボダボしておらず軽いく動きやすい。

そして、運動することを前提でつくられているため、透湿性が非常に良く、防波堤をあちこち歩いて汗をかいても蒸れ感が全くない!!

ジッと待つ釣りをあまりしないので、実に快適だ。

そんなこんなでとりあえず先端近くまで歩いていき、まずは日が昇り始めるまでロックフィッシュを楽しむことにした。

寒くなってきてからのロックフィッシュの傾向としては、シャッドやカーリーテイルなどのスイミング系よりも甲殻系などでゆっくり誘う方が反応が良く感じる。

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また、最近はハチガラなんかもよく釣れ、心地良いファイトを楽しませてくれる。

ただ、この日は大サバに意気込んで来ているため、強気のリリース!!

まずまずのマゾイも現れたが、強気のリリースッ!!

大サバを連れて来いと声を掛け、海へとお帰りいただいた。



そうこうしているうちに少しずつ空が明るくなり始め、そろそろ本命の大サバを狙おうと、ロック用タックルを仕舞ってショアジギング仕様へと換装!!

30gのメタルジグを装着してキャストッ!!

メタルジグはよく飛んで本当に爽快だ。

空気を切り裂くキャスト音が心に喝を入れてくれる。

次第に空は明るくなり、日の光が差し込んで来てそんな綺麗事がどうでも良くなってきた頃、必死に抑え込んできたひとつの想いがボロっと口から出てきてしまった。



「本当に居るのか?」



そもそも10℃を下回りそうな水温域にサバがいるわけ………


いた。


微かーーーーにティップがプルプルしたのを感じ、あわせてみるも手応えもなく、何だろうと回収してみたら12〜3cmの小サバが釣れた。

いや、付いていた。

こりゃあ今日はダメかな………。

と思いながら、後から来た常連さん達に話を聞いてみると、どうやらおっちゃんの話は本当で、大サバが日によりポツ………ポツ………とあがっているとのこと。

また、まずまずの型のニシンも姿を現しているようだった。

そして最後に、今日は全然ダメだというトドメのひとこと。

心が折れそうになった翔はため息をつき、少し離れた所に居るTeruさんの方を見つめた。

Teruさんはtwitterでお世話になっており、以前に少しご一緒させていただいた方なのだが、実はロックフィッシュと戯れているときたまたま居合わせ、大サバが居るらしいと聞きつけて来たという旨をTeruさんに話していたのだ。

翔がそんな事を話したもんだから、Teruさんも一生懸命メタルジグを撃ち込んでいるのだ。

翔は申し訳ない気持ちでいっぱいになり、近くへと移動。

少しの雑談を交えながら共に粘ってみるも、反応は無し。

7時を過ぎてとうとうTeruさんはタイムアップとなり、翔はまたひとりに。

それから数投するも釣れる気配が全くせず、集中力が切れかかった翔はボケーっとリールを巻きながら、大サバが釣れたらピアノを頑張った娘へのプレゼントフィッシュにでもしようと思ってたのにな………なんて事を考えていた。

日曜日で子供たちも家にいるため、釣り時間は10時まで……と翔なりに決めていたが、その時間を待たずして帰ろうかとも考えていた。

すると、頭の片隅からある人から受けたひとことが飛び出してきた。



「翔さんって、デイロックとかしないんですか?」



以前に大サバを釣ったとき、タモ入れしてくれたtimさんのひとことだった。 

思えば、ソイはともかく、昼行性と言われるアブラコでさえ狙うのは夜。

翔の釣りのスタイルから自然とそうなったのだが、アブラコのシーズンである今、確かにやらない理由は無い。 

せっかくだしやってみようか………

突然気が向いた翔は、一旦畳んだロッドをもう一度組み直し、強風を考慮してシンカーはいつもより重めの10gをセット。

翔がアブラコ戦において信頼している、エコギア ロッククロー ホットオレンジフラッシュをテキサスリグに装着!!

今までメタルジグを撃ち込んでいた真後ろ……先端より150m程手前の内海に向かってキャストした。

状況的にあまり浮いていると思えなかったので、まずは足元から15mくらいに広がる捨て石の駆け上がりを狙うことにした。

狙うことにしたというよりも、まずはナイトロックでのアブラコと同じ探り方をしているだけである。

着底したリグをズルズルと引いていき、引っ掛かりを感じたところが駆け上がりの起点だ。

その引っ掛かりを感じたら、ロッドを徐々に立てていき、駆け上がりを登らせていく。

テンションの掛かり方や、その駆け上がりの質感なんかを感じながら登らせていくと、テンションが緩むときがある。

そこが岩や石もしくは構造物の頂点だ。

そこから更に引っ張っていくと、クッという感覚と共にまたテンションが掛かるようになる。

そこが次の段への登り口だ。

そうしたら最初と同じように登らせていく。

途中でロッドが立ち切ってしまったら、テンションを一定に維持するよう、ロッドを寝かせると同時進行でラインを巻き取り、ストロークを確保したらまたロッドを立てて登らせる。

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フッとテンションが抜けたら頂点で、また少し引っ張る。

すると今度は、コトッという感覚が伝わってきた。
 
この感覚を見逃してはならない。

このときのガヤのついばみにも似たコトッという感覚だが、コレはおそらくリグが根を踏み外して宙ぶらりになり、次の根の壁に当たった感触だ。

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これを感じたら、ロッドをゆっくり寝かす方向に動かしてみる。

すると…………



ススス…………



ラインが吸い込まれていく。

要はリグが穴に落ちていっているのだ。

こうなったらその穴の一番置くまで落とし込んでみる。

翔の南防波堤での経験上、最高2ヒロ以上落ちていく場所もある。

その穴の最下層まで落とし込んで軽くシェイクすると、その穴や隙間に住むアブラコが喰いついてくるのだ。

今回は反応が無かったため、また壁を登らせて次へ………次へ………また穴があったら落とし込む。

根掛かりしても、焦って無理矢理こじったりせず、コッコッコッコッと衝撃を与え、揉みほぐすように脱出。

焦らなければ意外と脱出できるものだ。

そうして丁寧に足元際まで探ったら少しずらして同じように探っていく。

2投目………

3投目………

先端から150mほど離れたこの地点は、先端付近のように根が乱雑に入り組んでおらず、複雑ながらも意外と根が整列している。

1投目も2投目……3投目も、似たような段数の場所で穴に落ちる。

おそらく基本の構造体にあれこれ付着物や崩れた構造体が重なって構成された根なのだろう。

4投目………

駆け上がり基部に当たり、そこから根の輪郭をなぞるよう意識しながらリグを登らせていく。

3段程根を登り、更に進めようとしたところで………


コトッ


ロッドを寝かし、穴の奥へと送り込む。

ロッドを水平に寝かせたが、まだ奥がありそうだ。

ベールを起こし、更に少しラインが出たところで到着。

先程より少し深い。


早速ベールを戻し、ラインを揺すって誘いのシェイ………………







ドッ!!!






突然の物凄く重たい衝撃に息が詰まったが、硬直しそうな腕を思い切り胸に引きつけフッキング!!



ドギュッ!!!
ジィィィィィィッ!!



ロッドにしっかりと重みが乗り、鋭いドラグ音が耳に刺さり込んできた!!!

一瞬根掛かりを思わせたが、一瞬の空白の直後、物凄い生命感が伝わってきた!!!




ドムッ!!!


ドムッドムドムドムッ!!




起こし上げたロッドは、リールシートのすぐ上から弧を描き始め、ティップは真っ直ぐ斜め下の獲物の位置を指し示している!!




ダダッ!!
ジジッ!!

ドモモモモモッ!!
ジッジッジッジジッ!!


お……………重い…………

あまりにもの重みに、その魚の重さとはまた別種の異変を感じた。



ゾゾゾ………


ゴゾゾゾ………



その感触に、翔は頭の毛穴が開くような焦りを覚えた。


挟まっている。

穴なのか隙間なのかわからないが、暴れる魚体がそこに詰まりかけている。

ラインも擦れているかも知れない……

ラインが切れるかも知れない……

ネガティブな思考が翔の頭の中を駆け抜けたが、力を抜いてもどの道潜られるか切られるかするだけ。

ならば精一杯引きずり出すっ!!!

タックルを信じて抜き出すッ!!

んあぁッ!!!

翔はバットに手を添え、ロッドを水平に保ちながら腕を持ち上げた!!!



ズヌ……


ズズッ!!



何かから解き放たれた感覚と共にテンションが、少し緩んだ!!!

翔は急いで体勢を立て直し、テンションを回復!!



ドダダダダダダダダ!!!



キタキタキタぁ!!!

隙間から引きずり出せたからか、あの魚特有の獰猛な首振りが衝撃となって伝わってきた!!

引きずり出したと言っても、先程とはまた違う引きの重さが伝わってきた!!

ロッドはキツくしなり、暴れる魚に合わせてティップが30cmくらいの幅でバタバタと暴れている!!!

ここまで来ると、引き寄せながら次の事を考えなければならない。

この魚をどうキャッチするかだ。

この日はショアジギングを目的に来ていたため、何が釣れても良いよう、タモを持参してきた。

良くも悪くも選択の余地がある!!

選べ!!!

ふたつにひとつ!!!

無駄なく流れる動きで抜き上げるか、多少のスキを作っても確実に引き上げるか!!

迷っていてはどの道得られない!!!



タモッ!!!!



ラインへのダメージがかなり大きいと判断し、タモ入れを決意!!

翔の位置からタモまで約7m!!

まだ姿の見えない相手との間合いを詰めつつ、同時にタモとの距離を縮めていく。

早く魚を引き寄せ過ぎても水面で暴れさせてしまい逃げられる………

できる限りタモを投下するギリギリ手前まで水中で戦いたい!!

もう少し…………

タモまであと1m………


ぬぁっ!!!!



デカい!!!


魚体の大きさに一瞬怯んだが、水面で暴れられる前になんとかしたい一心で、翔はタモに手を伸ばした!!!

タモをキャッチ!!!

すぐさまタモを斜めに構え、獲物の手前に投下ッ!!!!

タモの位置を保持しながら片腕でロッドを引き付けてタモへ誘導ッッッッ!!!












キャッチッ!!!











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ぃやったぁぁぁッ!!

51cmのエクセレントなアブラコだ!!!

非常に嬉しい!!!

今シーズン初モノのアブラコがこんなにも立派だという贅沢な事実!!!

非常にスリリングな一戦に、釣り上げた暫く後までわなわなと手が痺れていた。

案の定リーダーはリグ上1mがズタボロで、ラインの太さが半分まで削れている箇所もあった。

魚の記念撮影を終え健闘を称えながら脳締めと血抜きを施した。

翔は思わぬ大きな獲物に大満足!!

大きな達成感と高揚で、次の獲物を狙う気力すら消え失せた。

その後、適当にメタルジグを飛ばしてみたり、ワームを撃ち込んでみたりと、空を切り裂くロッドの音に癒やされるという綺麗事に身を委ね、爽やかな気持ちで気まぐれに、翔は持ち時間を満了することなく、防波堤を後にした。



大サバは叶わなかったが、心に残る素敵な一匹と出会うことができ、ピアノを頑張った娘へのプレゼントフィッシュとして持ち帰ることができた。

家に到着後、子供達や妻にアブラコを差し出すと、皆が驚き大喜びしてくれた。

美味しくなれ……と心を込めて捌き、用途毎に切り分けて低温熟成……。

その翌日に、そのアブラコは薄造りと鍋料理に生まれ変わった。

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薄造りは、しっとりとした脂が身に馴染み、ヒラメのエンガワをもっとあっさりさせたような上品な甘みと上質で淡白な旨味が舌の上で広がった。

アブラコの鍋料理は、我が家ではアブ鍋というなんともセンスの無い名で呼んでいるが、これがまた美味で、我が家のアブラコ料理の頂点である。

骨やアラから取った出汁に、醤油を主とした調味料で味付けし、贅沢にもぶつ切りにした身を野菜と共に炊き上げる。

ヒラメに負けない上質な出汁と身から溢れ出す旨味!!

また、その出汁を吸った野菜のうまいことッ!!!

酒も進み、日を跨いでもなお続く釣りの余韻を楽しんだ。



何度も言うが、アブラコシーズン初モノにしてこんなにも素敵な一匹と出会うことかできたことに感激した。

ラインを通して伝わってくる命の強さ!!

そしてありがたくもその命を家族で囲み、我の血肉へと変わってくれたことに感謝!!

小樽の海から最高のご馳走をいただきました!!



ありがとうッ!!!



小樽の海よ!!

これからもよろしくッ!!



■釣果■
・アブラコ×1