仕事の都合で東京へと出張となった翔は、朝に高速道路まで向かう途中にあるローソンへと立ち寄った。

車から降り、店内へ入ろうとすると、外で掃き掃除をしていた店員さんから声が掛かる。

「申し訳ございません。当店、本日リニューアルオープンとなっておりまして、開店が7時からなんです。」

あ………

ああ………。

よく見るとリニューアルオープンの張り紙が……。

そして、次に目に入ったのが『からあげクン 50円引き』の文字。

リニューアルオープンと言う事で、からあげクンやベーカリー、おにぎり…などが大幅に値引きとなっていた。

開店まであと10分………。

航空機の搭乗時間から手続きや移動にかかる時間を差し引くと、余裕たっぷり。

……。

待つか。

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お目当てはもちろん…からあげクンだ。

唐揚げでもなく、ナゲットでもなく、ジャンクな味ながらもそれをジャンクと感じさせない絶妙な風味。

翔の好物だ。

好物を目の前にして10分など痛手ではない。

開店時間を迎えると同時にレジ前へ行き、からあげクンのレギュラーとレッドを注文。

オープンとあって、全てが揚げたて熱々だった。

揚げたてのからあげクンは格別なのだ。

因みに、以前元ローソンの店員をしていた知女性に、見た目だけで揚げたてか否かを判断することはできないのかと尋ねた事がある。

すると彼女は、ポイントを2つ程教えてくれた。


①ボリューム
揚げてから時間が経つと、縮んで見た的なボリュームがなくなってくるらしく、揚げたてのものはふっくらとしており、見た目的にボリュームがある。


②容器の油染み
揚げたものはすぐに容器へ入れるが、時間の経過に連れて容器へ油が染み出していくので、油染みが広範囲に広がっているもの程時間が経っており、揚げたてのものはその染みが小さい。

そこまでして美味しいからあげクンを求める程、からあげクンが大好きな翔。

からあげクンを食べると必ず蘇ってくる思い出がある。



大企業に勤めていた父は毎日忙しく、仕事から帰ってくるのなんて夜遅く、出張や飲み会などで普段一緒に過ごす時間は貴重であったたが、休みとなるとよく釣りに連れて行ってくれた。

あれは翔が小学校2年生くらいの頃だっただろうか。

ゴールデンウィーク中、小樽第一埠頭に投げ釣りでカレイ・アブラコを狙おうと、まだ真っ暗な夜中に家を出た。

その道中に立ち寄ったのがローソン。

飲み物やおにぎりをカゴに沢山入れ、レジに並ぶと、父はからあげクンを注文した。

車に戻ると香ばしいなんとも言えない匂いが車中に立ち込めた。

車を走らせ始めた父は、手探りで袋からからあげクンをを取り出し、ピリッとシールを剥がして蓋を開けると、更にいい香りがフワッと広がる。

そしてひとつ…………ふたつ…………と頬張る父の横顔を、翔はチラッ……チラッ……と羨ましそうに覗いていた。



翔の両親は若くして翔を産んでおり、現在35歳の翔に対して54歳。

って事は翔が当時7歳とすると26歳。

まだまだ父も食べ盛り。

…………というか家族みんなが大食いだ。

家で焼き肉するとなると、肉は2キロ程用意していたくらい。

自分が大事に焼いていた肉だって、よそ見をしているうちに奪われ、気を抜いて食事なんかできやしない。

そんな環境の中で習得したのが生食い。

焼ける前に喰ってしまえと言う、なんとも原始的な戦法だ。

お陰様…………で、翔はお腹を壊したりした記憶がない。

腸内で様々な細菌を飼い慣らしているのだろう。

風邪などを含む病気も無いという、強靭な免疫システムが構築されている。



話は逸れたが、翔はそんな状況から、父が頬張るからあげクンが、自分にも当たるなんてことは思っておらず、すぐにからあげクンの事を頭から押し退けて別の事を考えていた。

すると隣の父から、「ほら……食え」……とからあげクンを差し出された。

翔は心の中でガッツポーズ!!

ありがとう……と三角形の容器を手にすると、意外に重い。

中を覗くと3個も残っている。

ひとつ頬張ると、カリッとした衣をこじ開けるように中から肉汁が飛び出し、口の中にジュワーッと鶏肉の美味しさが駆け巡った。

たまらない!!!!

からあげクンは昔も今も変わらず、5個入りで200円。

当時の翔にとってそれは超高価であり、それが3つもあるということは、それが全て翔が食べられるなんて考えが無かったので、ひとつ食べた時点で2つ残ったからあげクンをそのまま父へ返した。

すると父の口から驚きの言葉が。

「いいよ。あとやるよ。」

前述の通り、食に関しては敵のような存在の父から、翔の方が多い量を与えられるなんて事に驚きを隠せなかった。

ありがとうの言葉もなく、そっと自分の膝の上に戻し、小樽に着くまでの道中、それは大事に……大事に食べた。

美味しかったな。



現地に到着してからは、父は釣りに熱中。

翔は当時まだ整備も整っていない荒れ地の埠頭で、捨てられている仕掛けから針やオモリ、ライン等を集めて仕掛けを作り、木の枝や太い針金なんかに結んで、足元を泳ぐガヤなんかを釣って遊んでいた。

そんな釣りが翔の釣りの原点であり、父……そしてからあげクンの思い出である。



大人になった今、自分のお金で好きなときに好きなだけ買って食べられるようになった。

しかし未だ、あのとき食べたからあげクンに勝るからあげクンに出会ったことはない。